ビビ サフィーダ逝く フンザの老人の死
夫ベーグの故郷フンザ、パスー村で、我が一族最長老であったお婆ちゃん、ビビ・サフィーダが亡くなったという訃報が届きました。
享年ははっきりしないのですが、100歳を超えていたといいます。

d0106555_2354365.jpg(お婆ちゃん、ついに亡くなっちゃったんだ・・・)。

大病をしていたわけではありません。

ビビ・サフィーダは、去年、私がパスーに里帰りしたときも、元気そうだったのです。

世界三大長寿エリアといわれるフンザの人々には、これまで病気らしい病気というのが、あまりありませんでした。

そういう中では、冬になると、厳しい自然にさらされ、お年寄りが静かに枯れるように亡くなっていくのです。
ですから毎年、冬になると、(この冬はどの老人が逝ってしまうのだろうか)と、心もとない気持ちになるのです。

フンザの女性たちは外が零下の日も、外で手を握りあうと、どの手もあたたかく、それがかの地の冬の厳しさの中で、私の心を温かく灯してくれます。
この数年のビビ・サフィーダは、夏でも手を握ると冷たく、(きっと心臓の働きが良くないのだろうな)と一抹、気がかりでした。
いつまで元気で生きていてくれるだろう・・・と。

フンザを訪れる多くの旅人たちには、この地の老人が深いシワを刻んでなお、健康で、平和に幸せに、大家族に囲まれ年を取っていくさまが、桃源郷と比喩される美しい風景とあいまって、どこか憧れの風景としてうつるようです。

たしかに多くの老人がその通りで、その中でも、ビビ・サフィーダの姿というのは、本当に美しく、フンザに帰るたびに、(生きていてくれてありがとう、また会えて良かった)、という気持ちを私に起こさせてくれる老人でした。
私たちの一族の長老でもありましたから、敬愛する気持ちもひとしおでした。

私がベーグと結婚したときも
初めて生まれた娘を連れて帰ったときも
次に赤ん坊の息子を連れて帰ったときも
お祝いの乳製品を持って、孫やひ孫を引き連れ、飛んで来てくれたビビ・サフィーダ。

そういったお祝いのとき、彼女は即興の詩を小さな声で謡ってくれました。それは母語ではなく、「古いペルシャ語で歌っているんだよ」と、ベーグが教えてくれました。
韻をふんでいて、意味もわからないのに、美しい歌でした。

大地に根をおろし、沢山の子と孫を育て、放牧をしてバターやチーズを作り、麦でパンをこね、楽しいことも悲しいこともすべて知っていたビビ・サフィーダ。
世界の辺境地で厳しい時代を生きながらも、知識や視野が広い女性でした。
長老として敬われ、いざとなったら場をとりしきるその姿は厳かだったなぁ。

「本当にインテリジェントな人だった。
ビビ・サフィーダは生きる楽しさを、みんなに教えてくれた人だ」と、つぶやくベーグ。

私が行くたびに視力が落ちているようで、曾孫に付き添われ歩いていたビビ・サフィーダ。
それでも小さな体はいつも気丈でした。

麦畑の畦道をゆっくり歩いてるビビ・サフィーダ。
我が家に来ると、女たちが座る場所の一番良い席で、ちょこんとチャイを前に腰かけているビビ・サフィーダ。

現地の言葉の語彙が少ない私は、沢山のことを彼女と話せたわけではないのですが、その小さな体から圧倒的な何かを感じさせてくれた人でした。

厳しい冬を今年も乗り越えたのに、逝ってしまったんだ・・・。
本人は自分の命が終わる日を予期していたでしょうから、美しい春に咲き誇るアンズやリンゴの花を楽しんでいったでしょうか。

村全体が3日間喪に服します。
亡くなった翌昼には、もう小高い山の上、パスー村を見下ろす墓所に葬るしきたりのため、今頃はもうお墓で眠っていることでしょう。

どうぞ、安らかに眠って下さい。

余話:
フンザの老人を見ていると、多くが自分の死期を悟っているように感じます。
ビビ・サフィーダもそうだった、と思う。
目が白内障で見えなくなったり、歯が欠けてしまったり、ひとつずつ失っていくも、
フンザの老人には、”寝たきり”というケースはありません。
今の日本から見ると、”健康なまま長寿を生きる”モデル、ともいえるでしょうね。
by silkroad_caravan | 2009-05-27 00:42 | パキスタン北部あれこれ
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フンザへ嫁ぎ、パキスタン政府公認現地旅行会社&取材業に励む日本人女子が綴る仕事最前線やスローライフ。アフガニスタン取材も得意。Silkrad Caravan Tour, TV Media coverage
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